AI × データ分析基礎知識集 / ベイズ統計

ベイズ統計の基礎|事前分布・尤度・事後分布とベイズA/Bテストの考え方


ベイズ統計は、データを観測するたびに「どの仮説をどれだけ確からしいと考えるか」を更新していく枠組みです。本記事では、頻度論との確率の解釈の違い、ベイズの定理を支える事前分布・尤度・事後分布、データが増えるほど事後分布が絞られるベイズ更新、「Bが勝つ確率」を直接出せるベイズA/Bテストの利点と落とし穴、そしてThompson Sampling(トンプソン抽出)への接続までを、初学者向けに整理します。

公開2026.05.18
最終更新2026.05.18
読了 16 分 / 約7,100字
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AI × データ分析観測のたびに確信を更新する統計の枠組み

ベイズ統計の基礎
事前分布・事後分布・ベイズ更新

A/Bテストで「Bが勝った」と判断するとき、頻度論の仮説検定はp値という遠回りの指標を返します。一方で、現場が本当に知りたいのは「Bが勝っている確率はどれくらいか」「いま切り替えると、どれくらい損をしうるか」という直接的な問いです。この問いに正面から答えるのが、ベイズ統計の枠組みです。

C
本記事の結論を先に
ベイズ統計は『事前の確信』を『データ』で更新し、『事後の確信』を分布で持つ

ベイズ統計では、確率を「確信の度合い」と解釈します。推定したいパラメータ(CVRなど)を1つの固定値ではなく分布として扱い、データを観測するたびにベイズの定理で更新します。観測前の見込みが事前分布、データの裏付けが尤度、更新後の見込みが事後分布です。事後分布を持っていれば、「真のCVRが3%を超える確率」「BがAに勝つ確率」「いま判断したときの期待損失」を直接計算できます。これが、p値や信頼区間を介する頻度論にはない、ベイズの実務的な強みです。

01.まず結論:ベイズ統計は『観測のたびに確信度を更新する』枠組み

ベイズ統計の発想は、日常の判断にとても近いものです。新しいLP(ランディングページ)を公開する前、私たちは経験から「CVRはたぶん2〜4%くらいだろう」とぼんやり見込みを持っています。公開して100人が訪問し3人がコンバージョンすれば、その見込みは少し動きます。さらに1万人ぶんのデータが集まれば、見込みはかなり鋭く定まります。

この「最初の見込み → データ → 更新された見込み」という流れを、確率の言葉で厳密に回す手続きがベイズ統計です。更新前の見込みを事前分布、更新後の見込みを事後分布と呼び、両者をつなぐのがベイズの定理です。

図:ベイズ統計は「事前の確信」を「データ」で更新して「事後の確信」を得る

ベイズの定理は「事後分布 ∝ 尤度 × 事前分布」と要約できます。観測前の見込み(事前分布)に、データの裏付け(尤度)を掛け合わせ、観測後の見込み(事後分布)に更新します。

STEP 1

事前分布P(θ)

データを見る前の確信。「CVR(コンバージョン率)はたぶん2〜4%くらい」といった見込みを分布で表す

STEP 2

尤度P(データ|θ)

観測されたデータが、各パラメータ値のもとでどれだけ起こりやすいかを表す

STEP 3

事後分布P(θ|データ)

事前分布をデータで更新した結果。次にデータが来れば、これが新しい事前分布になる

事後分布が次の事前分布になる――これがベイズ更新。観測を重ねるほど確信は研ぎ澄まされていく。

頻度論の仮説検定が「観測した差は偶然で説明できるか」をイエス・ノーで判定するのに対し、ベイズは「真の値はこのあたりにこれくらいの確信で存在する」という分布そのものを出力します。判定ではなく確信の地図を持つ――この違いが、実務での使い勝手に効いてきます。

02.頻度論とベイズ|確率の2つの解釈

ベイズ統計と頻度論(従来型の統計)の違いは、計算手法より先に「確率」という言葉の意味にあります。同じ「確率」でも、両者は別のものを指しています。

頻度論では、確率は「同じ試行を無限に繰り返したときの長期的な頻度」です。コインの表が出る確率0.5とは、無限に投げれば半分が表になる、という意味です。この立場では、推定したいパラメータ(真のCVRなど)は固定された未知の定数であり、それ自体に確率を語ることはしません。

ベイズ統計では、確率は「ある主張に対する確信の度合い」です。「真のCVRが3%を超える確率は80%」のように、まだ1つに定まらない量に対して、現時点でどれだけ確からしいと考えるかを数値で表します。この立場では、パラメータは確率変数として分布で扱われます。

観点頻度論ベイズ統計
確率の意味長期的な頻度(無限回の試行に占める割合)確信の度合い(いま何をどれだけ確からしいと考えるか)
パラメータの扱い固定された未知の定数確率変数(分布で表す)
事前知識原則として使わない事前分布として明示的に組み込む
主な出力p値・信頼区間事後分布・信用区間・「仮説が正しい確率」
『95%』が指すもの区間を作る手続きの性質(手続きを繰り返せば95%が真値を含む)その区間に真値が入る確率そのもの(信用区間)
!
信頼区間のよくある誤解
頻度論の「95%信頼区間」は『真値が95%でこの中』という意味ではない

頻度論の95%信頼区間は、厳密には「同じ手続きで区間を作り続ければ、そのうち95%が真値を含む」という手続きの性質です。目の前の1つの区間について「真値がこの中にある確率95%」とは言えません。多くの人が直感的に欲しいのは後者の意味であり、ベイズの信用区間(credible interval)はまさにそれを与えます。「事後分布の95%がこの区間に入る=真値がこの区間にある確率95%」と、素直に解釈できます。この解釈のしやすさが、ベイズが実務で好まれる理由の一つです。

03.ベイズの定理|事前分布・尤度・事後分布

ベイズ更新の心臓部がベイズの定理です。推定したいパラメータをθ(シータ、たとえば真のCVR)、観測データをDとすると、次のように書けます。

P(θ|D)  =  P(D|θ) × P(θ)  /  P(D)

事後分布  =  尤度  ×  事前分布  ÷  周辺尤度

実務的には P(D) は定数なので、次の比例関係だけ覚えればよい:

事後分布  ∝  尤度  ×  事前分布

3つの登場人物の役割を整理します。

要素記号意味
事前分布P(θ)データを見る前の確信。「CVRはたぶん2〜4%」のような見込みを分布で表す
尤度P(D|θ)各パラメータ値θのもとで、観測データDがどれだけ起こりやすいかを表す関数
事後分布P(θ|D)事前分布を尤度で更新した結果。観測後の確信であり、次の事前分布になる
周辺尤度P(D)全体を確率にするための規格化定数。比例関係だけ見るなら無視できる

実務で扱いやすいのは、事前分布と事後分布が同じ種類の分布になる組み合わせです。これを共役事前分布と呼びます。コンバージョン率のような「成功・失敗」を数える問題では、ベータ分布を事前分布に選ぶと、データ(二項分布)で更新した事後分布もまたベータ分布になり、計算が一行で済みます。

観測データの型尤度(データのモデル)共役な事前分布
コンバージョンの有無(成功/失敗)二項分布ベータ分布
一定時間あたりの件数(問い合わせ数など)ポアソン分布ガンマ分布
連続値の平均(滞在時間・単価など)正規分布正規分布

ベータ分布は2つのパラメータαとβで形が決まり、直感的には「α回成功し、β回失敗したときの確信」を表すと考えられます。事前分布をベータ(1, 1)(=一様分布、どのCVRも等しくありえると考える無情報な見込み)にしておけば、観測で成功s回・失敗f回を見たあとの事後分布は、ただの足し算で ベータ(1 + s, 1 + f) になります。

04.ベイズ更新|データが増えるほど事後分布は絞られる

ベイズ統計の最大の特徴は、事後分布が次の事前分布になる点です。今日のデータで更新した事後分布を、明日また新しいデータで更新する――この逐次更新をベイズ更新と呼びます。データを一度に処理しても、小分けに処理しても、最終的な事後分布は同じになります。

図:観測が増えるほど事後分布は細く高くなる(=不確実性が縮む)

横軸はCVR(コンバージョン率)の推定値。同じ真の値に対して、観測数 n が少ないうちは事後分布が広く(=確信が薄く)、n が増えるほど真の値の周りに鋭く集中します。

真のCVRn=20(広い)n=200n=2,000(鋭い)

事後分布の「幅」が、そのまま不確実性の大きさを表します。観測が少ないうちは広い範囲が「ありえる」が、データが積み上がると真の値の近くに確信が集中します。頻度論の信頼区間が縮むのと同じ現象を、ベイズでは分布そのものの形で見ます。

観測が少ないうちは、事後分布は広くなります。これは「真の値がまだ広い範囲のどこにあってもおかしくない」=確信が薄いことを意味します。データが積み上がるほど分布は真の値の周りに鋭く集中し、確信が強まります。頻度論で「サンプルを増やすと信頼区間が狭まる」のと同じ現象を、ベイズでは分布の形の変化として直接見られます。

# ベータ分布によるベイズ更新(CVRの推定)
import numpy as np
from numpy.random import default_rng

rng = default_rng(0)

# 事前分布 Beta(1, 1):一様(事前知識なし)
alpha, beta = 1, 1

# 観測:5,000訪問のうち120コンバージョン
visits, conversions = 5000, 120

# 事後分布 = Beta(α + 成功, β + 失敗)
alpha_post = alpha + conversions
beta_post  = beta + (visits - conversions)

# 事後分布から標本を引き、点推定と95%信用区間を出す
samples = rng.beta(alpha_post, beta_post, size=200_000)
print(f"CVRの事後平均: {samples.mean() * 100:.2f}%")
lo, hi = np.percentile(samples, [2.5, 97.5])
print(f"95%信用区間: {lo * 100:.2f}% 〜 {hi * 100:.2f}%")

ここで得られる95%信用区間は、「真のCVRがこの区間に入る確率が95%」とそのまま読めます。頻度論の信頼区間のように「手続きの性質」と解釈をひねる必要はありません。

i
事前分布をどう選ぶか
事前知識がなければ無情報な事前分布、あれば過去データを控えめに反映する

事前分布の選び方は、ベイズ統計でもっとも質問が集まるところです。実務での基本方針は2つです。第一に、確かな事前知識がないなら無情報な事前分布(ベータ(1, 1) など)を使い、結論をデータに語らせます。第二に、過去の同種テストの傾向があるなら、それを控えめに反映した事前分布を使います。ただし、事前分布を強く効かせるほど結論を操作できてしまうため、強い事前分布を使うときは根拠を明示し、無情報な事前分布での結果と比べる(感度分析)のが安全です。データが十分に集まれば、事前分布の影響は薄まり、結論は事前分布の選び方にほとんど依存しなくなります。

05.ベイズA/Bテスト|『Bが勝つ確率』を直接出せる

ベイズ統計がA/Bテストで力を発揮するのは、現場の問いにそのまま答えられるからです。頻度論の検定が返すp値は「差がないと仮定したときの観測の珍しさ」という間接的な指標で、誤解も招きやすいものです。ベイズA/Bテストは代わりに、「BがAに勝つ確率」と「いま判断したときの期待損失」を直接出します。

手順はシンプルです。A群・B群それぞれのCVRについて事後分布を作り、両方の分布から無数のペアを引いて、BがAを上回った割合を数えるだけです。

図:A群とB群の事後分布が分かれているほど「Bが勝つ確率」は高い

横軸はCVR。各群の事後分布は「その群の真のCVRはこのあたり」という確信の分布です。2つの分布の重なりが小さいほど、BがAを上回っている確信が強くなります。

A群CVR 約2.4%B群CVR 約3.2%重なり=不確実性CVR(コンバージョン率)が大きい →

ベイズA/Bテストは、両群の事後分布から無数のペアを引いて「BがAを上回った割合」を数えます。これがそのまま P(B が A に勝つ確率)。p値のように解釈をひねる必要がなく、「Bが勝つ確率は約99%」と直接言えるのが利点です。

# ベイズA/Bテスト:P(B>A) と期待損失・期待リフトを求める
import numpy as np
from numpy.random import default_rng

rng = default_rng(0)

# 事前分布 Beta(1, 1)(一様:事前知識なし)
prior_a, prior_b = 1, 1

# 観測:訪問数とコンバージョン数
visits_A, cv_A = 5000, 120   # A群 CVR 2.4%
visits_B, cv_B = 5000, 160   # B群 CVR 3.2%

# 各群の事後分布から大量に標本を引く
post_A = rng.beta(prior_a + cv_A, prior_b + visits_A - cv_A, size=400_000)
post_B = rng.beta(prior_a + cv_B, prior_b + visits_B - cv_B, size=400_000)

p_b_wins = np.mean(post_B > post_A)          # Bが勝つ確率
expected_lift = np.mean(post_B - post_A)     # 期待リフト
# Bを採用したのに実はAが上だった場合の損失の期待値
expected_loss_B = np.mean(np.maximum(post_A - post_B, 0))

print(f"P(BがAに勝つ): {p_b_wins:.3f}")              # 約0.99
print(f"期待リフト: {expected_lift * 100:+.2f}pt")    # 約+0.80pt
print(f"B採用時の期待損失: {expected_loss_B * 100:.3f}pt")

この例では、Bが勝つ確率は約99%、期待リフトは約+0.8pt、Bを採用したときの期待損失はごくわずかになります。「Bが勝つ確率99%」は、p値と違って意思決定者がそのまま理解できる数字です。さらに期待損失――間違ってBを選んでしまったときに失うCVRの期待値――を併せて見れば、「勝つ確率は完全に100%ではないが、外したときの損失も小さいので切り替えてよい」といった、リスクを織り込んだ判断ができます。

i
意思決定の閾値
『勝つ確率』だけでなく『期待損失』で止めどきを決める

ベイズA/Bテストでは、「P(B が勝つ) が95%を超えたら採用」のように勝率で閾値を引くこともできますが、より実務的なのは期待損失を基準にする方法です。「Bに切り替えて万一外したときの期待損失が、許容できる小さな値(たとえば0.01pt)を下回ったら終了」と決めておけば、勝者がAでもBでも「もう十分に小さなリスクで決められる」点でテストを止められます。勝率だけだと僅差のときに延々と決まりませんが、期待損失なら「どちらでも損が小さいなら早く決める」という現実的な停止ができます。

06.頻度論のA/Bテストとの比較

ベイズと頻度論は対立する流派ではなく、道具の使い分けです。同じA/Bテストでも、両者は別の問いに答え、別の落とし穴を持ちます。

観点頻度論のA/BテストベイズのA/Bテスト
出す答え「観測した差は偶然で説明できるか」(有意か否か)「Bが勝つ確率」「期待リフト」「期待損失」
解釈のしやすさp値・信頼区間は意味を取り違えられやすい「Bが勝つ確率99%」は意思決定者にそのまま伝わる
事前知識原則として使わない過去テストの傾向を事前分布に反映できる
サンプル設計事前にサンプルサイズを固定するのが基本期待損失の閾値による停止など柔軟な設計も可能
主な落とし穴途中で覗いて止めると偽陽性が増える(ピーキング)閾値を超えた瞬間に止める運用ではやはり誤判定が増える

重要なのは、ベイズに変えれば途中で何度見て止めてもよい、という誤解を持たないことです。確かにベイズの事後分布は「いま見ても解釈が壊れない」性質を持ちますが、「勝率がたまたま閾値を超えた瞬間に止める」という運用をすると、頻度論のピーキングと同じく、偶然の揺らぎを勝ちと誤認する確率が上がります。ベイズでも、サンプル計画を立てるか、期待損失のような揺らぎに強い基準で止めどきを決める規律は必要です。

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どちらを選ぶか
意思決定の直感性ならベイズ、報告・監査の標準性なら頻度論

実務では、社内の意思決定を素早く回したい場面ではベイズA/Bテストの「勝つ確率」「期待損失」が扱いやすく、外部への報告や監査、論文・規制対応など標準的な枠組みが求められる場面では頻度論のp値・信頼区間が依然として基準です。どちらか一方が正しいのではなく、答えたい問いと読み手に合わせて選びます。統計的仮説検定の基礎で扱った帰無仮説・p値・検出力の考え方は、ベイズを使う場合でも「テストを設計し、結果を疑う」基礎体力として効きます。

07.Thompson Sampling(トンプソン抽出)への接続

ベイズの事後分布は、A/Bテストの「判定」だけでなく、「次にどの選択肢を見せるか」をその場で決める用途にも自然につながります。その代表がThompson Sampling(トンプソン抽出)です。

通常のA/Bテストは、訪問者を一定割合でAとBに振り分け続け、最後にまとめて判定します。テスト中は、たとえ早い段階でBが優勢でも、半分の訪問者には負けている可能性のあるAを見せ続けます。Thompson Sampling は、この「テスト中の機会損失」を縮めるために、各選択肢の事後分布から1標本ずつ引き、いちばん大きく出た選択肢を見せるという運用をします。

# Thompson Sampling:各腕の事後分布から1標本引き、最大の腕を選ぶ
import numpy as np
from numpy.random import default_rng

rng = default_rng(0)

def choose_arm(successes, trials):
    # 各腕の事後分布 Beta(1+成功, 1+失敗) から1標本ずつサンプリング
    samples = [
        rng.beta(1 + s, 1 + (n - s))
        for s, n in zip(successes, trials)
    ]
    return int(np.argmax(samples))   # いちばん大きい標本が出た腕を選ぶ

# 例:3つの腕の現在の成績(成功数 / 試行数)
successes = [12, 30, 5]
trials    = [200, 380, 90]
print("次に見せる腕:", choose_arm(successes, trials))

この仕組みのうまい点は、事後分布の幅がそのまま「探索すべき度合い」になっていることです。試行が少なく事後分布が広い腕は、サンプリングのたびに大きな値も小さな値も出るため、ときどき選ばれて探索されます。一方、十分に試行を重ねて高いCVRが確信されている腕は、安定して選ばれて活用されます。探索と活用のバランスを、別途ルールを書かずに事後分布だけで自然に取れる――これがベイズ更新を土台にした適応的最適化の魅力です。

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バンディットへの橋渡し
Thompson Sampling は『ベイズ更新を意思決定に直結させた』手法

Thompson Sampling は、本記事で見てきた「事後分布を持つ」「観測のたびに更新する」というベイズの基本動作を、そのまま選択肢の出し分けに使った手法です。マルチアームドバンディット、イプシロン貪欲法、信頼上限法(UCB)との比較や、A/Bテストへの組み込み方は、バンディット・適応的最適化で実務寄りに整理しています。本記事のベイズ更新を理解していれば、その理論的な土台はすでに押さえられています。

08.実務での使い方と落とし穴

ベイズ統計を実務に持ち込むときに、つまずきやすい点と対処を整理します。

落とし穴起きること対処
強い事前分布で結論を誘導都合のよい事前分布を選び、データが少ないうちに望む結論を出す原則は無情報な事前分布。強い事前分布を使うなら根拠を明示し感度分析する
勝率が閾値を超えた瞬間に停止偶然の揺らぎで一時的に閾値を超えた時点を勝ちと誤認するサンプル計画を立てるか、揺らぎに強い期待損失基準で止める
信用区間と信頼区間の混同ベイズの信用区間を頻度論の信頼区間と同じ意味だと説明してしまう「真値がこの区間にある確率」がベイズ、「手続きの性質」が頻度論と区別
事後分布の幅を見ない事後平均だけ見て、まだ不確実性が大きいのに結論を急ぐ点推定と必ず信用区間(幅)をセットで見て、確信の強さを確認する
!
探索と確認を混ぜない
事前分布も含めた分析計画は、データを見る前に決めておく

ベイズは事前分布という自由度がある分、結果を見てから事前分布や停止基準を変える余地が生まれます。これは頻度論のp-hacking(有意になるまで条件を変える操作)と同じ問題を引き起こします。使う事前分布、勝率や期待損失の閾値、評価する主指標は、テストを始める前に決めて記録しておきます。後から変えたくなったら、それは「新しい仮説」として別データで検証します。

ベイズA/Bテストで最低限おさえること
  • ✓ 事前分布・勝率や期待損失の閾値・主指標をテスト前に決めて記録する
  • ✓ 確かな事前知識がなければ無情報な事前分布を使い、結論をデータに語らせる
  • ✓ 事後平均だけでなく信用区間(幅)を見て、確信の強さを確認する
  • ✓ 「Bが勝つ確率」と「期待損失」の両方で意思決定する
  • ✓ 勝率が閾値を一瞬超えただけで止めない(揺らぎへの規律を持つ)

計算面のハードルは下がっています。コンバージョン率のような問題はベータ分布の足し算で済み、複雑なモデルでも PyMC や Stan といった確率的プログラミングのライブラリが事後分布の計算を引き受けます。ベイズ統計で本当に難しいのは計算ではなく、事前分布の選び方と結果の解釈という設計判断であり、そこは人が責任を持つ領域です。

09.よくある質問(FAQ)

ベイズ統計と頻度論、どちらを使うべきですか?

どちらか一方が正しいのではなく、道具の使い分けです。社内の意思決定を素早く回したい場面では、ベイズA/Bテストの「Bが勝つ確率」「期待損失」が意思決定者にそのまま伝わり扱いやすいです。一方、外部への報告・監査や、標準的な統計の枠組みが求められる場面では、頻度論のp値・信頼区間が依然として基準になります。答えたい問いと読み手に合わせて選んでください。両方の基礎を押さえておくことが、結局いちばん強い状態です。

事前分布は恣意的で、結果を操作できてしまうのではないですか?

強い事前分布を都合よく選べば結論を誘導できる、という懸念はそのとおりです。対処は2つあります。第一に、確かな事前知識がなければ無情報な事前分布(ベータ(1, 1) など)を使い、結論をデータに語らせます。第二に、過去データに基づく強い事前分布を使うなら、その根拠を明示し、無情報な事前分布での結果と比べる感度分析を行います。さらに、事前分布や閾値はデータを見る前に決めて記録します。なお、データが十分に集まれば事前分布の影響は薄まり、結論は事前分布の選び方にほとんど依存しなくなります。

「Bが勝つ確率99%」と出たら、すぐ採用してよいですか?

勝つ確率は重要ですが、それだけでは足りません。併せて期待リフト(BがAをどれくらい上回りそうか)と期待損失(万一Bを選んで外したときに失うCVRの期待値)を見てください。勝率99%でも、期待リフトがごく小さければ改修コストに見合わないことがあります。逆に、勝率がそこまで高くなくても期待損失が十分小さければ「外しても損が小さいので切り替えてよい」と判断できます。事後分布の幅(信用区間)を見て、まだ不確実性が大きすぎないかも確認します。

ベイズA/Bテストなら、好きなタイミングで結果を見て止めてよいですか?

「ベイズに変えれば自由に覗いて止めてよい」はよくある誤解です。ベイズの事後分布は途中のどの時点で見ても解釈が壊れない性質を持ちますが、「勝率がたまたま閾値を超えた瞬間に止める」という運用をすれば、頻度論のピーキングと同じく偶然の揺らぎを勝ちと誤認する確率が上がります。対処は、事前にサンプル計画を立てるか、揺らぎに強い期待損失を停止基準にすることです。「Bを採用して外したときの期待損失が十分小さくなったら終了」と決めておけば、規律のある停止ができます。

ベイズ統計の計算は難しいですか?実務で使えるツールはありますか?

計算のハードルは下がっています。コンバージョン率のように「成功・失敗」を数える問題は、ベータ分布のパラメータを足すだけで事後分布が求まり、数式を覚えなくても実装できます。より複雑なモデルでも、PyMC や Stan といった確率的プログラミングのライブラリが事後分布の計算(MCMC など)を引き受けます。ベイズ統計で本当に難しいのは計算ではなく、事前分布をどう選ぶか、事後分布をどう解釈して意思決定につなげるかという設計判断で、そこは人が責任を持つ領域です。

10.まとめ

ベイズ統計は、確率を「確信の度合い」と解釈し、推定したい量を分布として持つ枠組みです。データを見る前の見込み(事前分布)に、データの裏付け(尤度)を掛け合わせ、観測後の見込み(事後分布)へ更新する――このベイズ更新を、観測のたびに繰り返します。データが増えるほど事後分布は真の値の周りに鋭く集中し、不確実性が縮みます。

実務での要点は次の3つです。

  • ベイズは現場の問いに直接答えられます。「Bが勝つ確率」「期待損失」「真値が区間にある確率」を、p値を介さず出力します。
  • 事前分布は自由度であり責任でもあります。事前知識がなければ無情報な事前分布を使い、強い事前分布には根拠と感度分析を添えます。
  • ベイズでも止めどきの規律は要ります。勝率が一瞬閾値を超えただけで止めず、サンプル計画や期待損失基準で判断します。

この3点を守れば、ベイズ統計はA/Bテストから Thompson Sampling による適応的最適化まで、一貫した土台として使えます。

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モデル構築の自動化

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澤田 翔太(Shota Sawada)
この記事を書いた人

澤田 翔太

株式会社クリプタル 代表取締役

1988年生まれ、慶應義塾大学卒。創業メンバーとして関わった株式会社セールスサポートを株式会社ネオマーケティング(東証STD 4196)に売却。株式会社クリプタルでも複数の事業立ち上げと売却を経験し、2022年9月には婚活・恋愛メディア「シッテク」「婚活会議」を株式会社ベビーカレンダー(東証GRT 7363)へ売却。現在はAI業務支援事業、TANTOU事業、グロースハック支援事業、メディア事業、SEOコンサルティング事業を手がける。