Agentic RAG とは
「RAG をやってみたが期待ほど精度が出ない」「複数文書をまたぐ調査がうまくいかない」という相談は、多くの場合 2022〜2023 年型の RAG(1 ショット検索 → top-K → 回答)の限界に当たっています。2024 年以降は、AI 自身が検索計画を立て反復する Agentic RAG / Agentic Search が主流化しました。本記事ではその違いと、BtoB で何を選ぶべきかを整理します。
固定クエリで 1 度だけ検索する従来型 RAG は、社内 FAQ など答えが定型的な用途には今でも十分です。一方、複数資料の突き合わせや調査が必要な領域では、AI 自身が検索計画を立てて反復する Agentic RAG / Agentic Search が主流です。
01.まず結論:AIが検索を反復する RAG
Agentic RAG の本質は、「検索クエリをアプリ側で固定する」から「AI が検索戦略を動的に決める」へ責任を移すことです。これにより、複雑な質問でも (a) 質問を分解、(b) サブ質問ごとに検索、(c) 結果を評価、(d) 足りなければ再検索、を繰り返して根拠を集められるようになります。
ユーザー質問を受け取り、AI が検索戦略を立てる
大きな質問をサブクエリに分解
サブクエリごとに検索 / 結果を評価 / 必要なら再検索
得られた根拠を統合して回答を生成(出典付き)
従来 RAG はステップ 1→3→4 の 1 周だけ。Agentic RAG はステップ 2 と 3 を AI が複数回繰り返します。
02.RAG → Agentic RAG → Agentic Search の関係
3 つはまったくの別物ではなく、同じ家系の発展段階です。違いは「検索を AI が動的に組み立てるかどうか」「対象が社内文書か Web か」の 2 軸で整理できます。
| パターン | 検索の意思決定 | 反復 | 代表用途・実装 |
|---|---|---|---|
| RAG(従来型) | アプリが固定クエリで検索 | 1 回 | 社内 FAQ、規程検索、定型 Q&A |
| Agentic RAG | AI がクエリを分解・生成 | 必要に応じ複数回 | 社内文書を横断する調査、Self-RAG、ReAct |
| Agentic Search | AI が Web 検索を反復・統合 | 数回〜数十回 | Perplexity Deep Research、ChatGPT Deep Research |
| GraphRAG | 文書のエンティティ関係をグラフ化して検索 | (実装次第) | 組織・製品・契約の関係性をたどる調査 |
従来 RAG(1ショット検索)
2022〜2023 年に LangChain などで流行した「ベクトル検索 → top-K → そのまま回答」が従来型 RAG です。固定クエリで 1 度だけ検索し、得られた断片をプロンプトに入れて答えさせます。質問が単純で答えが定型な領域(社内 FAQ・規程検索)では現在でも十分です。
Agentic RAG(検索の動的計画)
AI が自分で「どのクエリで検索すべきか」「結果が足りているか」「再検索が必要か」を判断します。検索対象は主に社内文書やナレッジベースで、Tool Use(Function Calling)の検索ツールを AI が反復呼び出しする形で実装されることが多いです。Self-RAG・ReAct・Plan-and-Execute などの研究パターンが土台になっています。
Agentic Search(Web 反復探索)
Agentic RAG の検索対象を Web に広げたものが Agentic Search です。Perplexity の Pro Search、OpenAI / Anthropic / Google の Deep Research / 調査エージェントが該当します。1 つの調査タスクで数十回の検索を回し、結果を統合してレポートを返すパターンが主流です。
03.Agentic RAG の主要パターン
| パターン | 中身 | 効きやすい場面 |
|---|---|---|
| Query Rewriting | ユーザー質問を検索向けに書き換え | 曖昧な口語質問を、ヒットしやすい検索式に変換 |
| Multi-step Retrieval | サブクエリに分解して並列・順次検索 | 複合的な質問、複数文書の突き合わせ |
| Self-RAG | AI が「もっと検索すべきか」「答えるべきか」を自己判定 | 情報十分性の判断、無駄検索の抑制 |
| ReAct | 推論 (Reason) と行動 (Act) を交互に進める | 計算・検索・確認を絡めた調査 |
| GraphRAG | 文書をエンティティと関係でグラフ化 | 組織図、契約、顧客関係などの構造的調査 |
Agentic RAG はモデル単体の機能ではなく、Tool Use(検索ツール)+ 状態管理(中間結果の保持)+ 終了判定(十分性判断)の組み合わせで実装されます。Anthropic / OpenAI の Agents SDK や、状態機械型の LangGraph がこの土台を提供します。
04.RAG パターンの変遷
オレンジで強調した行は、現在の RAG 像に直結する転換点。
「Agentic RAG なんて聞いたことがない」と感じる方は、2022〜2023 年の RAG 像で止まっている可能性があります。LangChain で構築した 1 ショット型 RAG は、2026 年現在では「過去寄りの実装」です。
05.LangChain / LangGraph / Agents SDK の現在地
2022〜2023 年は LangChain で全部つなぐ発想が主流でしたが、2024 年以降は次のように整理されています。
| フレーム | 現在地(2026/05) | 向く用途 |
|---|---|---|
| LangChain(汎用 SDK) | 学習・OSS PoC 用途で残るが、本番主流から外れた | ローカル試作、学習教材 |
| LangGraph | 状態機械型のエージェント設計。LangChain チーム提供で本番でも採用 | 複雑な分岐・反復・ガード条件があるエージェント |
| Anthropic Agents SDK | Claude 純正。Agent Teams / Subagents を標準化 | Claude を中核に据えた業務エージェント |
| OpenAI Agents SDK | GPT 系純正。Tool Use + ハンドオフ + ガードレールを統合 | GPT を中核に据えた業務エージェント |
| MCP | 接続層の標準。各 SDK と組み合わせて使う | 外部システム接続の共通化 |
LangChain は OSS / 学習用途では引き続き有効ですが、業務本番では Anthropic Agents SDK / OpenAI Agents SDK + MCP + LangGraph(状態管理だけ採用)の組み合わせが主流です。2022〜2023 年に LangChain で組んだ社内 AI は、2026 年の標準仕様に乗り換える設計判断が必要になります。
06.BtoBで向く用途・注意点
| 業務 | 推奨パターン | 理由 |
|---|---|---|
| 社内 FAQ・規程検索 | 従来 RAG で十分 | 答えが定型、検索 1 回で完結 |
| 競合・市場調査 | Agentic Search(Web 反復) | 複数ソースの統合、最新性が必要 |
| 顧客個別の調査・提案準備 | Agentic RAG(社内 + Web) | 社内資料 + 公開情報の組み合わせ |
| 契約・規程の横断照合 | GraphRAG / Agentic RAG | 条文間の関係性、参照解決 |
| コード調査・修正 | Agentic RAG + Tool Use | コード検索 + 実行 + 確認の反復 |
Agentic RAG / Agentic Search は反復が多いほど精度が上がりますが、推論コストと応答時間も比例で増えます。1 タスクで数十回検索する Deep Research は、API 料金が従来 RAG の数倍〜十倍になることもあり、PoC 段階で実測した上で本番設計します。
RAG実務入門|社内文書をAI回答の根拠にする検索拡張生成
従来型 RAG の実装設計(チャンク・メタデータ・評価)は別記事で詳しく整理しています。
AIエージェントの外部接続入門|ツール利用・MCP・RAGの違いと設計図
Tool Use / MCP / RAG の役割分担は別記事で整理しています。Agentic RAG はこの組み合わせの応用形。
AIとデータ連携|業務システムと繋ぐ3つの役割と全体像
API 直叩き → SDK → Function Calling → MCP の歴史も含めた全体像はこちら。
07.よくある質問(FAQ)
Agentic RAG と Agentic Search は何が違いますか?
技術的にはほぼ同じ家系で、検索対象が「社内文書(RAG 基盤)」か「Web 検索 API」かで呼び名が変わる程度です。Agentic Search は Perplexity・ChatGPT Deep Research・Claude の調査エージェントなど、Web を対象にした製品名で広まっています。社内 AI 文脈では Agentic RAG が一般的です。
従来 RAG はもう使うべきではありませんか?
用途次第です。社内 FAQ・規程検索のような定型 Q&A、答えが 1 つの文書に収まる場面では従来 RAG で十分機能します。複雑な調査・複数資料の突き合わせ・最新情報の統合が必要な場面で Agentic RAG / Agentic Search が必要になります。コスト・応答時間のトレードオフがあるので、用途で使い分けるのが現実的です。
LangChain は使うべきではないですか?
OSS / 学習用途では引き続き有用ですが、業務本番では Anthropic / OpenAI の Agents SDK + MCP の組み合わせが主流です。LangGraph(LangChain チームの状態機械型 SDK)は複雑な分岐・反復のあるエージェント設計で本番採用余地があります。2022〜2023 年に LangChain で組んだ社内 AI は乗り換えを検討するタイミングです。
Agentic RAG を入れると API コストはどのくらい増えますか?
反復回数次第ですが、従来 RAG の数倍〜十倍になり得ます。1 タスクで数十回の検索を回す Deep Research 系は特にコストが高くなりがちです。PoC で「1 タスクあたりのトークン消費・検索回数・応答時間」を実測してから、本番の利用上限・課金モデルを設計します。
Agentic RAG を使えばハルシネーションは消えますか?
減りますが、消えません。検索段階で誤った資料を選ぶ、要約段階で根拠を歪める、サブクエスチョン分解で本質を外す、といった誤りは依然起こります。出典確認と人間レビューは引き続き必要です(詳細は別記事「ハルシネーションとは」を参照)。
08.まとめ
Agentic RAG / Agentic Search は、RAG の発展形であり別物ではありません。違いは「検索を AI が動的に組み立てるかどうか」「対象が社内か Web か」の 2 軸です。社内 FAQ のような定型用途は従来 RAG で十分、調査・突き合わせ・最新情報が必要な領域では Agentic RAG / Agentic Search が現代形です。
フレームワーク選定では、「LangChain で全部やる」は 2024 年以降ほぼ過去の選択。Anthropic / OpenAI の Agents SDK + MCP + 必要に応じて LangGraph、という組み合わせが現在の主流です。Agentic RAG は反復回数とコストのトレードオフが直接効くので、PoC で実測してから本番設計に進みます。
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