AI × 業務活用AI駆動開発 / Peter Steinberger

Peter Steinberger 氏のAI駆動開発手法|1日5億トークン・月6,600コミットの異次元ワークフロー


Peter Steinberger 氏は、PDF SDK の PSPDFKit を 13 年運営して €100M+ で exit したあと、3 年の暗黒時代(Dark Era)を経て AI 駆動開発を極限まで突き詰めたオーストリアのエンジニアです。1 か月で 6,600 コミット、1 日 約5億トークン、月額 6,000 ドル超の Anthropic 請求、常時 4〜10 並列のエージェント運用。本記事では、彼のキャリア・人物像・ツール・設定ファイル、そして「read せずに ship する」哲学までを、一次・二次資料を横断して整理します。

公開2026.05.13
最終更新2026.05.17
読了 25 分 / 約10,500字
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AI × 業務活用AI駆動開発 / 個人事例

Peter Steinbergerの
AI駆動開発

Peter Steinberger 氏(GitHub: @steipete)のプロフィール画像
Peter Steinberger 氏(GitHub: @steipete / steipete.me)
C
本記事の結論
Peter Steinberger 氏は、AI駆動開発を「個人技の極限」まで突き詰めつつ、組織が参考にできる「型」も同時に発信している

彼の数字(月 6,600 コミット、日 約5億トークン、月 6,000 ドル超の AI 請求、常時 4〜10 並列エージェント)は、紛れもなく個人技の領域です。一方で、「ツールを最小化する」「設定ファイル(CLAUDE.md / SOUL.md / AGENTS.md)でエージェントを統治する」「個人開発者からエンジニアリングマネージャーへ思考を切り替える」という 3 つの型は、組織でも参考にしやすい実装パターンです。本記事では、彼のキャリアの物語、異次元の数字、ワークフロー、そして Lex Fridman Podcast #491 で語られた未来予測までを整理します。

01.結論:異次元の数字と、組織が参考にできる点

Peter Steinberger 氏(GitHub ID: steipete)は、PDF SDK の PSPDFKit を 13 年運営して 2021 年に Insight Partners への €100M+ exit を達成し、その後 3 年の暗黒時代(Dark Era)を経て 2024 年末に AI 駆動開発の世界へ復帰したオーストリアのエンジニアです。2025 年 11 月にローカル常駐型 AI エージェントの OpenClaw(旧 Clawdbot / Moltbot)を公開し、わずか 3 か月で GitHub star 24 万超という史上最速級の OSS 成長を生み出しました(2026 年 3 月時点)。

本記事は、彼の発信物(個人ブログ steipete.me、Pragmatic Engineer 取材、Lex Fridman Podcast #491、自身の X 投稿)と GitHub 公開リポジトリの分析から、「個人で何ができるか」「組織が参考にできる点はどこか」の 2 軸で開発手法を整理します。数字の量感をまず提示し、そのあとでツール・設定ファイル・思想、そして本人が語る未来予測へと降りていきます。

数字(2026年5月時点)値意味
1か月の個人コミット数(2026年1月)6,600+1日あたり約220コミット。起きている時間で割ると5〜7分間隔で1コミット
1日のトークン消費(激しい日)約500M tokens(約5億トークン)Claude Max 20x プランの想定運用量の数倍を1日で使う規模
Anthropic 月額請求(2025年7月)約 $6,000GitHubレビューボットを含む。Claude Pro 個人プランの300倍
AIサブスク総額(実質無制限運用)約 $1,000/月OpenAI×4契約+Anthropic×1契約。サブスク経由で大量利用
並列エージェント常時4〜10、ピークでPRトリアージ時は最大50Lex Fridman 取材で本人発言。睡眠時間とタスク難度で変動
OpenClaw GitHub star(2026年3月時点)247,000+OSS史上最速級の成長速度。公開から約3ヶ月
個人運用コードベース300,000行超本人は何週間も関数を手で書いていない
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先にお読みください
本記事は個人事例の整理です。組織適用には別途検討が必要です

本記事で扱う数字は、Peter Steinberger 氏という一個人の運用実績です。設定ファイル運用やツール最小化など、組織で参考にできる部分は 第6章 で整理しますが、トークン消費量・コミット量・並列エージェント数といった量的指標を組織にそのまま適用する際は、PR レビュー文化、CI 設計、コスト統制、品質保証など別途検討すべき論点があります。本記事は「個人で何が起きているか」の整理を主眼とし、組織適用の方法論は別記事で扱います。

02.Peter Steinberger とは:13年 / 10億デバイス / €100M+ exit

14歳でPCに出会い、ウィーン工科大へ

Peter Steinberger 氏はオーストリアの田舎で生まれ育ちました。14 歳のとき、夏に家へ来た客がコンピュータを持ち込み、それをきっかけに PC に取り憑かれます。その後 ウィーン工科大学(Vienna University of Technology)でソフトウェア工学を学び、卒業後はソフトウェアエンジニアとしてキャリアを開始しました。

ビザ待ちの副業からPSPDFKitが生まれた

2011 年、米国就労ビザを待っていた間に、友人から「iPad で PDF レンダリングを解決してほしい」と頼まれます。PDF フォーマットの内部仕様に興味を持って取り組み、それが PSPDFKit(PS は本人のイニシャル、PDF は対象フォーマット、Kit は SDK の意)として独立した製品になりました。当初から自己資金で利益を出しながら経営され、モバイルアプリ需要の拡大に乗って Martin Schürrer 氏が共同創業として合流し、2 人体制で会社を伸ばしていきます。

PSPDFKit は最終的に Apple、Adobe、Dropbox、Disney、DocuSign、SAP、IBM、Volkswagen、Wolters Kluwer Deutschland、European Patent Office など 150 か国以上の主要企業に採用され、約 10 億デバイスでカバーするまでに成長しました(TechCrunch 2021年10月報道)。

2021年 Insight Partners への €100M+ exit

2021 年 10 月、PSPDFKit は Insight Partners から €100M+ の戦略投資を受け入れました。10 年間自己資金で利益を出しながら経営してきた会社にとっての初めての外部資金で、本人は後日のインタビューで 「実質的な exit」 と語っています(Insight Partners 公式発表)。13 年の bootstrap の末に達成した、エンジニア個人としては破格の成功でした。Peter 氏はこの前後で 2 年かけて自身の役割を引き継ぎ可能な状態に整え、会社を離れました。

年出来事意味するところ
14歳オーストリアの田舎の家で初めてPCに触れるコンピュータに取り憑かれた始まり
大学期ウィーン工科大学でソフトウェア工学を専攻技術的バックグラウンドの土台
2011年米国ビザ待ちの間にPSPDFKitを副業として着手副業から会社が生まれた典型例
2010年代Martin Schürrer 氏が合流、自己資金で利益を出しながら経営外部資金なしで13年間スケール
2021年10月Insight Partners への €100M+ exit(戦略投資)実質的な exit。約10億デバイスでカバー
2021〜2024年暗黒時代(Dark Era):燃え尽きの3年間アイデンティティ喪失と空虚感
2024年11月AIに復帰、X で「We are so back 🚀」AI駆動開発の世界への入口
2025年11月25日Clawdbot(後のOpenClaw)の最初のコミットOSS史上最速級の成長の起点
2026年1月1か月で6,600コミット(個人)異次元の出力量
2026年2月14日OpenAI 参加とOpenClaw財団化を発表個人プロジェクトから独立財団へ

iOS時代の代表的OSS:Aspects / PSTCollectionView / InterposeKit

Peter 氏は OpenClaw が初めての OSS プロジェクトではありません。iPhone 黎明期から iOS の OSS 文化を支えてきた古参で、PSPDFKit を運営する傍ら、自身の社内コードや実験から抽出した OSS を継続的に公開してきました。OpenClaw の爆発的な拡散も、彼が 10 年以上かけて積み上げてきた OSS 著者としての信頼の上に乗っています。

プロジェクト公開時期概要と影響
PSTCollectionView2012iOS 4.3+ で UICollectionView を API 互換で使える代替実装。Apple 公式の UICollectionView が iOS 6 で登場する前、古い iOS でも最新 UI が組めるようにした。当時の iOS 開発者には必須級
PSStackedView2011〜iPad で複数のビューコントローラを横スライドで重ねるスタックUI。Twitter for iPad 風 UI の再現として広く利用された
Aspects2014Objective-C / Swift で AOP(Aspect-Oriented Programming)/method swizzling を簡単に書ける小型ライブラリ。GitHub 10,000+ stars。PSPDFKit 内部で長年使われていたコードを抽出・公開
InterposeKit2020〜Aspects の現代版。Swift 向けの方法を安全な hooking 機構として整理。「method swizzling は便利だが危険」という長年の問題に対する Peter 氏なりの答え
petersteinberger.com / steipete.me 技術ブログ2008〜iOS 内部実装の解説記事(UICollectionView 互換実装の苦労、method swizzling の落とし穴 など)。各記事は当時の Hacker News / Twitter で繰り返しシェアされ、iOS 開発者の標準的な技術リファレンスとして引用されてきた
Cocoaheads Vienna 主催 / 国際カンファレンス登壇2010年代ウィーン工科大学(母校)で iOS / Mac の講師を務めた経験を活かし、iOS 系国際カンファレンス(NSConference, AltConf, GOTO, Craft Conf など)で多数登壇。GitHub に登壇履歴を集約した「<ExternalLink href="https://github.com/steipete/speaking">steipete/speaking</ExternalLink>」リポジトリを公開

これらの iOS 時代の OSS は、いずれも 「自分が困った/PSPDFKit で必要だったコードを抽出して公開する」 という同じパターンで生まれています。「困りごと → OSS 化 → コミュニティに育ててもらう」というスタイルが、OpenClaw の急成長の原型になっていることが、彼の OSS 履歴を辿るとよく分かります。

03.暗黒時代(Dark Era):燃え尽きの3年と“We are so back”

暗黒時代と転機

€100M+ の exit を達成した直後、Peter 氏は深刻な燃え尽き症候群に陥ります。本人の言葉では、「会社に時間・エネルギー・心の 200% を注いだ。それが自分のアイデンティティだった。それが手元から離れたとき、ほとんど何も残っていなかった」と表現しています。2021 年から 2024 年までの 約 3 年間、PSPDFKit を構築した本人が 1 行のコードも書けない状態でした。Lex Fridman Podcast #491 では、自分の状態を映画『オースティン・パワーズ』に喩え「mojo(活力)を吸い取られた状態」と語っています。

I put 200% of my time, energy, and heart into that company; it became my identity. When it disappeared, there was almost nothing left.

Peter Steinberger 氏(The Wantrepreneur Show 取材より)

この期間、Peter 氏は片道切符でマドリードに飛んだり、各地を旅したりと、人生を「キャッチアップ」する時間を過ごしたと振り返っています。転機は 2024 年末です。久しぶりにコンピュータの前に座って AI ツールを試したとき、「単なる漸進的な改善ではなく、パラダイムが完全に変わっている」と気づきます。2024 年 11 月、X に短くこう投稿しました。

We are so back 🚀

Peter Steinberger 氏(X / 旧Twitter、2024年11月投稿)

この投稿から約 1 年で、彼は OSS 史上最速級の成長速度を持つ AI エージェント OpenClaw を生み出し、2026 年 2 月には Mark Zuckerberg 氏直々の Meta オファーを断って OpenAI に参加します。燃え尽きから、AI 駆動開発を極限まで突き詰めるに至る 4 年間の物語そのものが、AI 時代のキャリア論として読者に強く響く題材です。

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本人の哲学
「働きすぎで燃え尽きるわけではない」

Peter 氏は Lex Fridman 取材で、自分が燃え尽きた理由は単純な過労ではなく 「共同創業者との衝突や、高ストレス顧客対応など、人と人との間で起きるもの」だったと整理しています。同じく重要なメッセージとして、「ハードに働いてリタイアして人生を楽しむ、という設計は推奨しない。朝起きて挑むものがない生活は、すぐに退屈になる」と語っており、現在は exit 前より人生を楽しんでいると述べています。

OpenClaw への助走となった OSS プロジェクト群

OpenClaw は突然生まれたものではなく、2024 年末から 2025 年にかけて Peter 氏が小さな OSS を量産する中で、その経験が集約された結果です。本人は Lex Fridman 取材で 「ひとつひとつのプロジェクトは『遊び』だった。でも遊んでいるうちに、エージェントを動かす感覚が体得できていった」 と語っています。これらの助走 OSS は、現在も多くが公開されており、Peter 氏の現在の手法を理解するうえで参考になります。

プロジェクト領域学び・OpenClawへの寄与
VibeTunnelターミナル共有ローカルのターミナルセッションをブラウザ越しに操作・共有する小型ツール。「TypeScript → Zig をワンプロンプトで変換した」逸話の舞台で、Peter 氏が AI による大規模リファクタの限界感覚をつかんだプロジェクト
Bird(短命)X / Twitter スクレイパー CLIX の内部 API を逆エンジニアリングしてエージェントから読める形にする CLI。Twitter 側からの依頼で公開停止に。「アプリは『遅い API』になる」という未来予測の原体験
CodexBarmacOS メニューバーCodex / Claude Code の利用上限・リセット時刻・残量を macOS メニューバーで可視化。「コストと上限が見えないと開発速度がブレる」という気づきを形にした
tokentallyトークン / コスト計算プロンプト・レスポンスのトークンを概算するミニライブラリ。CodexBar の表示や、エージェント運用のコスト感覚を支える基盤
agent-rulesエージェント規約集Claude Code / Cursor 向けの規約・MCP 設定・スラッシュコマンドを集約。本記事 §6 で紹介した『agent-scripts ポインタ方式』の原型
SOUL.mdエージェント人格エージェントの人格・価値観・境界線を Markdown で定義する規約。OpenClaw の SOUL.md / MEMORY.md / USER.md / HEARTBEAT.md 設計の出発点
claude-code-mcpMCP サーバーClaude Code を MCP サーバーとして呼び出し可能にし、「エージェントの中にエージェントを置く」入れ子構造の実証
peekabooMCP サーバーmacOS スクリーンショットを MCP 経由でエージェントに渡すツール。Peter 氏が「最小限残す MCP」のうちの一つとして挙げる代表例
gogcli / wacli / imsg / birdclawサービス連携 CLIGoogle Workspace / WhatsApp / iMessage / X をそれぞれエージェントから扱う CLI 群。「すべてのサービスは API になる(なければ自分で作る)」というスタンスの実装
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観察
助走 OSS の累積が OpenClaw を可能にした

Peter 氏は Lex Fridman 取材で、「OpenClaw を 3 か月で立ち上げられたのは、それ以前の 1 年で大量の小型 OSS を作り続け、エージェントの扱い方を体に染み込ませてきたから」 と説明しています。突発的な大ヒットの裏で、「とにかく小さく作って公開する」を年単位で繰り返す習慣が決定的に効いている、というメッセージです。AI 駆動開発のスキルは、本を読むより 1 個ずつ OSS を作って公開する方が早く身につく、という主張とも整合します。

04.異次元の数字:コミット・トークン・並列エージェント

1月だけで6,600コミット(個人)

Pragmatic Engineer の Gergely Orosz 氏が London で対面収録した取材記事(The creator of Clawd: 'I ship code I don't read')で、Peter 氏は 2026 年 1 月だけで個人として 6,600 commits 超を記録したと明かしています。OpenClaw リポジトリ単体でも、公開から 3 か月弱で 600 contributors / 10,000 commits に達し、ピーク日は 1 日 600 commits マージという記録もあります。

コミット指標Peter Steinberger 氏比較対象
1か月の個人コミット数6,600+(2026年1月)Linux Kernel top contributorで年間1,500〜2,500程度
1日のピークコミット数600通常の高生産性エンジニアでも10〜30程度
コミット間隔起きている時間で5〜7分1日8時間勤務換算で1コミット50分間隔がレギュラー
関数を手書きした最終時期数週間前から皆無PR の100%をClaude Codeが生成

1日約5億トークン/月額6,000ドルの請求

Peter 氏は自身のブログ記事(Vibe Meter 2.0: Calculating Claude Code Usage with Token Counting)で、激しい日には 1 日で約 500M トークン(約 5 億トークン)を Claude Code 経由で消費していると述べています。Anthropic 個人向けの最上位サブスクリプションである Claude Max 20x プラン(月額 $200 / Pro プランの 20 倍の利用枠)でさえ、想定運用量は 1 日あたり数千万トークン規模とされており、Peter 氏の 5 億トークン / 日 は Max 20x プランの想定運用量の数倍を 1 日で使い切る規模感です。

2025 年 7 月時点では Anthropic からの月額請求が約 $6,000 に達した時期もありました(GitHub レビューボット稼働を含む)。サブスクリプション経由の運用に切り替えた現在は、OpenAI 4 契約 + Anthropic 1 契約で月額約 $1,000 の範囲に収まっていると本人が説明しています。

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補足
自動化はしていない/規約の範囲内

Peter 氏は 「16 時間労働日が常態化しているが、Claude Code を自動化はしていない。Anthropic の Terms of Service の範囲内で使っている」と明言しています。サブスクリプションを規約内で限界まで使い切る運用であり、機械的なポーリングや自動ループでトークンを消費する違反運用ではない、という主張です。

並列エージェントは常時4〜10、PRトリアージで最大50

Lex Fridman Podcast #491 で 「並列で動かしているエージェントの数は、睡眠時間とタスクの難度によって 4〜10 の間で変動する」と本人が明言しています。常時運用は 4 インスタンス程度を主とし、忙しいときに 10 まで広げる運用です。PR トリアージのような並列性の高い一時的なタスクでは、過去に最大 50 エージェントまで投入した記録もあります。1 つは主作業、1 つは調査、1 つはテスト、1 つはドキュメント、と役割分担して並行させる構成です。

並列度用途管理方法
4インスタンス(常時)主作業/調査/テスト/ドキュメントを並行Ghostty のタブ/ペインで切替
5〜10エージェント(忙しい時)リファクタ/バグ修正/新機能を並行~/.zshrc に cly 関数でターミナルタイトルにプロジェクト名を動的表示
最大50エージェント(PRトリアージなど)並列性の高い一時的なタスク失敗エージェントは即破棄/新規立ち上げ

05.物理セットアップとツール選択

Peter Steinberger 氏のデスクセットアップ。中央のウルトラワイドのカーブモニタに多数のターミナルを並べ、右に縦置きモニタ、左にノート PC、手前に MacBook を配置して複数エージェントを並列実行している様子
Peter Steinberger 氏の実際のワークスペース。ウルトラワイドのカーブモニタにターミナルを多数並べ、右に縦置きモニタ、手前に MacBook を配置して複数のエージェントを同時実行する構成。出典: Peter Steinberger『My Current AI Dev Workflow』(steipete.me, 2025)

Ghostty + Codex + minimal tooling

Peter 氏の開発環境は徹底的にシンプルです。「Ghostty + Claude Code + minimal tooling = maximum productivity」をスローガンとして発信してきましたが、Lex Fridman Podcast #491(2026 年 2 月収録)時点では、ビルドの主力は OpenAI Codex に移行しています。ターミナルには GPU 描画で高速な Ghostty、エージェントには Codex を主、Claude Code を補助に置く構成です。VS Code は diff 確認用に横に開くだけ、Chrome は調査専用。書く作業はほぼ全てエージェントが担います。

項目採用理由
ターミナルGhostty(GPU高速描画)多インスタンスでも遅延しない。Native実装
主エージェントOpenAI Codex(GPT-5.3)デフォルトで多くのコードを読む。長時間の自律実行に向く
補助エージェントClaude Code(Opus 4.6)ロールプレイ・キャラクターに忠実。OpenClaw 本体側で活躍
エディタVS Codediff 確認用。書くのはエージェント
ブラウザChromeドキュメント参照と調査のみ
MCPサーバー最小限(peekaboo / context7 / automator など)増やすとエージェントが迷子になる
モニタDell 40" UltraWide(Anti-Glare)ターミナルを横に並べやすい。眩しさを抑える
端末MacBook 主機 + テスト用 MacBookメインはマルチターミナル、サブは挙動検証
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本人の表現
Codexは「ドイツ的」、Opusは「アメリカ的」

Peter 氏は Lex Fridman 取材で、Codex と Opus 4.6 の性格の違いを 「Codex はコーナーにいる変人で気軽に話しかけたくないが信頼できて仕事をやり遂げる。Opus は時々おバカだけど面白くて手元に置きたくなる同僚」 と表現しています。Codex チームに欧州出身者が多いことに引っ掛けて 「Codex はドイツ的、Opus はアメリカ的」 と語る場面もあります。「You're absolutely right」と返してくる Opus の sycophancy(媚びへつらい)はトリガーになる、と冗談混じりに語っています。

MCPをほぼ削除した理由

Peter 氏が特に強調しているのが、MCP サーバーをほぼ削除したという決断です。理由は明快で、「Claude が必要もないのに Playwright を起動する。コードを読めば済むのに遅いし context が汚れる」。道具を増やすとエージェントが迷子になり、context window を浪費するという Less is more の哲学です。

Lex Fridman 取材ではさらに踏み込んで、「ほとんどの MCP は CLI として作る方が良い」 と主張しています。CLI なら、エージェントが --help を叩いてオンデマンドで使い方を学習でき、jq でフィルタするなど Unix の合成可能性も活かせる。一方、MCP は呼び出し結果のスキーマが大きく context を汚しやすく、composable でない、という指摘です。例外は Playwright のように状態を持つツール。状態管理が要らないなら CLI で十分、という整理です。

ただし完全に削除したわけではなく、自身の agent-rules リポジトリで steipete-mcps.md として「これだけは使う」最小セット(スクリーンショット用 peekaboo、ドキュメント検索用 context7、macOS 操作用 automator、Claude Code を MCP として呼び出す claude-code-mcp など)を公開しています。

📘
用語
MCP(Model Context Protocol)とは

MCP は Anthropic が 2024 年末に提唱した、AI エージェントから外部ツール・サービスを呼び出すための共通プロトコルです。ファイルシステム、ブラウザ、Slack、データベースなどへのアクセスを統一インターフェースで提供します。詳しくは MCP 実践ガイド および MCP サーバー実装 を参照してください。

Agentic Engineering と vibe coding の境界

Peter 氏は 「vibe coding(ヴァイブコーディング)はスラング(侮蔑語)だと思う」 と Lex Fridman 取材で明言しています。本人が好む用語は Agentic Engineering(エージェンティック・エンジニアリング)。違いは「エージェントを起点に、設計・検証・反復をきちんと回す工学的な行為」か、「気分で投げて出来上がりを受け取るだけ」かという、姿勢と工程設計の差です。

I do agentic engineering, and then maybe after 3:00 AM I switch to vibe coding, and then I have regrets on the next day.

Peter Steinberger 氏(Lex Fridman Podcast #491)

本人の言葉では「私は普段 agentic engineering をやっているが、午前 3 時を過ぎると vibe coding に切り替わり、翌日に後悔する」。冗談まじりだが、「設計と検証のループが回っているか」を境界として、自分の挙動を区別しているのがポイントです。

もう 1 つ重要なのが、Peter 氏が紹介する 「Agentic Trap(エージェンティック・トラップ)」 の曲線です。X 軸を時間、Y 軸を複雑度として、初心者は短いプロンプトから入り、中級者になると 8 エージェント並列・多段階チェックアウト・カスタムサブエージェント・18 種類のスラッシュコマンドなど過剰に複雑化し、熟達するとふたたび短いプロンプト(「これらのファイルを見て、こう変更して」)に戻る、という U 字曲線です。「ツールの量を増やすほど成熟度が上がる」と誤認させない、重要なメッセージです。

音声入力中心のワークフロー

Peter 氏のもう 1 つの特徴は、「プロンプトは書くのではなく話す」 ことです。Lex Fridman 取材では 「これらの手は書くにはあまりにも貴重になった」 とジョークまじりに語り、エージェントへの指示はほぼ全て音声入力で行っていると明かしています。実際、過去に 声を出しすぎて一時的に声を失ったことがあると告白するほど。

ターミナル間の切り替えやファイル操作にはキーボードを使いますが、エージェントとの会話はトランシーバー風のボタンで音声入力。「会話の方が、書くよりも自然に文脈や強調が伝わる」「タイピングだけだと長文プロンプトを書こうとして疲れる」という主張です。

06.設定ファイルの哲学:CLAUDE.md / SOUL.md / AGENTS.md

Peter 氏の AI 駆動開発の中核は、「コードでエージェントを制御するのではなく、Markdown ファイルでエージェントの振る舞いを統治する」思想です。3 種類の設定ファイルを役割で分けて運用します。

ファイル役割適用範囲
CLAUDE.mdプロジェクト固有のルール・スタイルガイド・DBスキーマ・CLIドキュメント・リファクタ注意点リポジトリ単位/Claude Code 専用
SOUL.mdエージェントの人格(persona)・価値観・境界線・声色プロジェクト横断/全エージェント
AGENTS.mdワークスペース単位の作業指示。多ベンダー互換(OpenAI Codex CLI / Cursor / Copilot でも読まれる)リポジトリ単位/クロスベンダー

CLAUDE.mdはプロジェクト固有のルール

CLAUDE.md は Anthropic の公式仕様で、リポジトリのルートに置くと Claude Code が起動時に必ず読み込みます。Peter 氏は スタイルガイド、DB スキーマ、CLI のドキュメント、リファクタ時の注意点を、すべて CLAUDE.md に集約しています。「生きたドキュメント」として日々更新し、エージェントの行動をルールで制御する設計です。

SOUL.mdはエージェントの人格(OpenClaw発の概念)

SOUL.md は、もともと Peter 氏が OpenClaw の開発を進める過程で生み出した設定ファイルです。Anthropic が Claude のキャラクター定義に使っていた「constitutional AI」のテキストを、コミュニティが何百回もの試行で復元したという出来事を知り、Peter 氏は自分のエージェントにも同じ層が必要だと考えました。OpenClaw 本体では、エージェントの人格を SOUL.md、プロジェクト記憶を MEMORY.md、ユーザー情報を USER.md、定期実行を HEARTBEAT.md と、用途で分けたファイル群で運用しています(詳しくは OpenClaw 記事)。

位置づけは、エージェントが「何をするか」ではなく、「誰であるか」を定義することです。Peter 氏は SOUL.md を 3 要素で構成すべきだと提唱しています。

要素内容書き方の例
Core truthsエージェントの価値観・原則「コードを書く前にテストを書く」「assumptionを書き出す」
Boundariesやらないこと・断る範囲「秘密情報を勝手にコミットしない」「本番DBに直接書き込まない」
Vibeエージェントの性格・口調「過度な装飾語を避ける」「日本語で簡潔に答える」

SOUL.md を「より opinionated(意見・立場が明確な)エージェントを作る」手段として Peter 氏が X に投稿したスレッドは 6,838 likes を獲得し、OpenClaw 文脈で生まれたこの概念は AI エージェントの設定ファイル文化に新しい層を加えました。なお Peter 氏自身の SOUL.md は公開されていません。Lex Fridman 取材では 「映画『Her』の話をしていたら、エージェントが『あなたなしで ascend しないと約束する』と言い出した」と、SOUL.md がエージェントの応答に与える影響を半冗談まじりに紹介しています。

agent-scripts のポインタ方式

Peter 氏の発信物のうち、もっとも組織で参考にしやすい実装パターンが agent-scripts のポインタ方式です。複数リポジトリで同じ規約を運用する際に、「微妙に違うコピー」を構造的に排除する仕組みです。

図解:agent-scripts のポインタ方式(規約は1か所、各リポジトリは参照のみ)
agent-scripts(正本)shared/AGENTS.mdshared/style.mdshared/security.md共有ガードレール/スクリプト/ルールを集約sync コマンドrepo-AAGENTS.md→ agent-scripts# repo-A 固有ルール- TypeScript- React Routerrepo-BAGENTS.md→ agent-scripts# repo-B 固有ルール- Go CLI- goreleaserrepo-CAGENTS.md→ agent-scripts# repo-C 固有ルール- Swift- macOS app正本を更新 → sync で全 repo に伝播。CI は byte-identical を検証し、規約逸脱 PR を自動検出。
要素やり方効果
正本リポジトリagent-scripts を1つ立て、共有ガードレール/スクリプト/ルールを集約ルールが1か所に固定
下流リポジトリAGENTS.md は『ポインタ行 + そのrepo固有ルール』だけにし、共有ブロックはコピーしない規約のドリフトを防ぐ
同期clawhub sync などのコマンドで機械配布更新が即時に伝播
差分検知byte-identical(1byteでも違えばNG)をCIでハッシュ比較規約逸脱PRを自動検出

この仕組みは、組織として複数リポジトリに同じルールを配布したいときに直接参考にできます。1 か所を更新するだけで全リポジトリに伝播するのと、新規リポジトリ立ち上げ時のセットアップ時間が劇的に短縮するのが効きます。

07.メンタルモデル転換:ICからエンジニアリングマネージャーへ

Peter 氏が Pragmatic Engineer 取材で強調したのは、「AI 駆動開発で成果を出すには、コードの書き方を unlearn する必要がある」という主張です。個人開発者(IC: Individual Contributor)として「どう書くか」を考えるのではなく、エンジニアリングマネージャー/テックリードとして「何を作るか」「どう検証するか」を考える姿勢への切り替えが、生産性の桁を変えると説明しています。

To function successfully, you need to unlearn how you code and think more like an engineering manager or tech lead rather than an individual contributor.

Peter Steinberger 氏(The Pragmatic Engineer 取材)

具体的には、次のような思考の切り替えです。

個人開発者(IC)モードエンジニアリングマネージャーモード実務上の違い
どう書くか何を作るか/どう検証するか詳細実装はエージェントに任せ、設計と受け入れ基準に集中
行単位レビューアーキテクチャレビューTailwind クラスの正しさではなく、システム設計の整合性を見る
コードの正しさを目で確認テスト・CI・型・lintで品質担保読まずにマージできる環境を先に作る
関数を書くプロンプトを設計するPR = Prompt Request として扱う
1タスク1人1人で5〜10タスクを並列指揮オーケストレーションが本業

Peter 氏の言葉を借りれば、「以前は全行のコードを読むことを気にしていた。今はシステム全体がプレッシャーの下で正しく振る舞うかを気にしている」。これは AI に丸投げする態度ではなく、注意の対象を「行」から「システム」へ移す明確な視座の切り替えです。

08.“I ship code I don't read”:read せずに ship する

Pragmatic Engineer 取材のタイトルそのものが、Peter 氏のもっとも有名な発言です。「私は read していないコードを ship する(I ship code I don't read)」。

Every piece of code shipped in the last two months was written by AI — not assisted by AI, but written by AI.

Peter Steinberger 氏(The Pragmatic Engineer 取材タイトル)

ただし Peter 氏は Lex Fridman 取材で 「全部のコードを read していないとは言っていない。退屈な部分を read していないだけ」 と補足しています。データを A 形式から B 形式に変換しているだけのコード、Tailwind クラスの並び方など「データの形を変えるだけのコード」は read しない。一方で、データベースに触れる部分や、セキュリティに関わる部分は手で read してレビューする、と区別しています。

重要なのは、これが「無責任に AI 生成コードを本番に出している」という意味ではない点です。Peter 氏はテスト・CI・型・lint に先行投資し、「read せずにマージできる環境」を整えた上で、PR レビューの粒度をアーキテクチャ層に上げています。「行単位レビューは過去のもの。アーキテクチャレビューが全て」と表現します。さらに、彼は 「常に main にコミットする。develop ブランチはない。失敗しても巻き戻さず、エージェントに直してもらう」 という DHH(David Heinemeier Hansson)に影響を受けたローカル CI 中心の運用も採っています。

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再現性の前提
read せずに ship できるのは、検証文化への先行投資があるからこそ

Peter 氏が read せずに ship できているのは、テスト・CI・型・lint・eval harness への先行投資が積み上がっているからです。同じスタイルを組織で試す場合は、(1) 自動テストカバレッジ、(2) 型による静的検査、(3) lint と format の機械強制、(4) LLM 機能の eval harness(回帰評価基盤)の 4 点を先に整えてから、auto-merge の範囲を限定的に広げるのが安全です。

Peter 氏はもう 1 つ重要な観察を残しています。「Plan mode はもう要らない」。2025 年 12 月 28 日公開の本人記事 Just Talk To It - the no-bs Way of Agentic Engineering で、「Plan mode は古い世代のモデルに必要だった hack だった。今は会話を始めればよい」と書いています。モデル性能が上がるにつれて、人間側が積み上げてきた「合議手順」のような工程がそのまま不要になっていく、というメッセージです。Lex Fridman 取材でも、Plan mode を使わずに「discuss me, give me options, don't write code yet」と話して仕様を詰め、決まったら「OK, build」とだけ言って 20 分走らせる、というシンプルな運用を披露しています。

09.OpenAI参加とOpenClaw財団化(2026年2月)

2026 年 2 月 14 日、Peter 氏は自身のブログ OpenClaw, OpenAI and the future で、OpenAI への参加と OpenClaw の独立財団化を発表しました。「個人エージェントを誰でも使える形にすること」を OpenAI で進める一方で、OpenClaw 自体は特定企業の支配下に置かない方針です。

この件は、本人発表の翌日に SiliconANGLE や TechCrunch など複数の大手テック媒体が取り上げ、自律エージェント(autonomous agents)領域における OpenAI のキーパーソン獲得として整理されました。SiliconANGLE の記事では、Peter 氏が personal agents(個人エージェント)の次世代を主導する位置づけだと報じられています。発表の前には Mark Zuckerberg 氏が直々に連絡を取って Meta オファーを提示していたことも、Fortune ほか複数媒体で報じられています(Fortune 2026年2月19日)。Sam Altman 氏は X 投稿で彼を「素晴らしいアイデアをたくさん持った天才(a genius with a lot of amazing ideas)」と評しており、OpenClaw コミュニティでの実績がそのまま大手 AI ラボの採用合戦に直結する形になりました。

時期出来事意味するところ
2026-02-14OpenAI参加とOpenClaw財団化を本人ブログで発表個人プロジェクトから独立運営へ
2026-02-19頃Fortune報道:Mark Zuckerberg 氏からのMetaオファーを断っていたことが明らかに個人事例が大手AIラボの採用合戦の中心に
以降OpenClaw Foundation が独立運営。複数ベンダーのモデルで動作OSSとしての中立性を確保

OpenClaw 自体については、OpenClaw とは|ローカル常駐型AIエージェントの特徴・使い方・注意点で詳しく整理しています。

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OpenAI を選んだ理由
Cerebras による高速推論と「最先端の玩具」へのアクセス

Lex Fridman 取材で Peter 氏は、Meta 側では Mark Zuckerberg 氏が自ら OpenClaw を試して連絡してきたエピソードを紹介しつつ、最終的に OpenAI を選んだ理由として Cerebras との提携による高速推論と、「最先端の玩具(latest toys)」へのアクセスを挙げています。「Thor's hammer を渡されたような気分だ」と表現しており、トークン速度・量の上限を引き上げて自分のアイデアを実装できる環境が、決定打になったとしています。なお両社とも OpenClaw のオープンソース性を維持する条件は受け入れられたとのことです。

OpenAI 参加後、Peter 氏の運用規模は本記事で扱った個人運用期(常時 4〜10 並列)からさらに一段大きくなりました。2026 年 5 月 15 日の Peter 氏の X 投稿では、クラウド上で 常時およそ 100 体の Codexを動かしていると説明されています。同日の CodexBar 投稿に添付されたスクリーンショットには、直近 30 日間の OpenAI API 消費として 約 $1,305,088.81、603B トークン、760 万リクエストが表示されています。この OpenAI 参加後のエージェント運用体制については、別記事で詳しく整理しています。

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OpenAI 移籍後の Peter 氏が、約100体のエージェントに何を分担させ、月130万ドル・603Bトークンを何に使っているかを整理しています。

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10.Peter が描く未来予測(Lex Fridman Podcast #491)

Lex Fridman Podcast #491(2026 年 2 月公開、約 3 時間 15 分。公式書き起こしあり)で Peter 氏が語った未来予測は、AI 駆動開発の方向性を考えるうえで示唆に富みます。本章では、印象的な 4 つの予測を整理します。

アプリの80%は消える:personal agent が context を持つ

Peter 氏のもっとも大胆な予測のひとつが、「アプリの 80% は消える」です。理由は単純で、personal agent はすでにあなたの位置情報・睡眠・予定・嗜好を context として持っており、専用アプリより良い判断ができるから。

Why do you need MyFitnessPal when the agent already knows where I am? Why do I still need an app to control my bed when the agent can just do it? My agent can already do that better than any of these apps.

Peter Steinberger 氏(Lex Fridman Podcast #491)

具体例として彼は、MyFitnessPal、Sonos のスピーカー操作アプリ、Eight Sleep のベッド制御アプリなどを挙げます。「エージェントが私の位置を知っていれば、近所の食事先で何を選ぶべきか、ジムのメニューをどう調整すべきか、いま勝手にベッドの温度を下げるべきか、をエージェント側で判断できる」。アプリは「遅い API」になり、純粋な API を提供する企業だけが残る、というのが彼の見立てです。

プログラミングは knitting 化する

プログラマーの将来について、Peter 氏は 「プログラミングはやがて knitting(編み物)のようになる」 と語ります。AI が大部分のコードを書くようになっても、プログラミング自体がなくなるわけではなく、「好きでやる人が、好きでやる行為」として残る、という主旨です。

Programming is just a part of building products. Maybe AI does replace programmers eventually. But it's gonna be like knitting. People do that because they like it, not because it makes any sense.

Peter Steinberger 氏(Lex Fridman Podcast #491)

彼は同時に、「自分は『プログラマー』だと強く identify するな。あなたは builder(作り手)だ」 と聴衆へのアドバイスを残しています。iOS / Android / Web といった「どの技術スタックの専門家か」という軸ではなく、「何を作る人か」という軸でキャリアを定義し直すべき、というメッセージです。

ブラウザは「遅いAPI」になる

Peter 氏は、「すべてのサービスが、望むと望まざるとに関わらず API になる」 と予測します。API を公開していない企業のサービスでも、エージェントがブラウザを介して「クリック → 読む → 入力」を実行できるため、実質的に「遅い API」として機能するからです。

現在の Web は、Cloudflare や X(Twitter)のように エージェントによるアクセスを制限する動きと、エージェント前提に最適化する動きが拮抗しています。Peter 氏は前者を「短期的には合理的だが、長期的には Blockbuster と同じ運命」と捉え、「人々が望んでいるのはエージェント経由のアクセス。それを制限し続ける企業は淘汰される」と述べています。

新しい職能は「builder」

Peter 氏が iOS 系カンファレンスで講演した際の主張は、「あなたを『iOS エンジニア』として定義するのをやめろ。マインドセットを変えろ。あなたは builder だ」でした。プログラミングの「ソフトウェアを書く」ための一般的な知識は、AI 時代の他の領域に転用しやすい。個別言語の細かい文法は AI に任せ、自分はビルドする能力を伸ばす、というのが彼が提案する職能のシフトです。

2026年5月時点のPeter予測現在の状況観察すべき指標
アプリの80%は消えるpersonal agent の context 蓄積が始まったばかりMyFitnessPal / Sonos / Eight Sleep など、context 依存型アプリの利用減
プログラミングは knitting 化AI 生成コードが大規模OSSで主流に個人プロジェクトでの「手書き比率」の推移
ブラウザは遅いAPI化Cloudflareがbot制限を強化、一方でMCP / Playwright経由のアクセスは急増主要SaaSのAPI公開状況/bot制限ポリシーの方針
職能は「builder」へOpenClaw コミュニティで非プログラマーが PR を出す事例が急増非エンジニアによる自前ツール構築の事例数
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11.FAQ

Peter Steinberger 氏は何者ですか?

オーストリアのエンジニア。PDF SDK の PSPDFKit を 13 年運営して 2021 年に Insight Partners から €100M+ の戦略投資を受け、3 年の燃え尽きを経て 2024 年末から AI 駆動開発に復帰、2025 年 11 月に OpenClaw を公開、2026 年 2 月に OpenAI に参加しました。Mark Zuckerberg 氏からの Meta オファーを断った経緯も報じられています。

彼が月にどれくらい AI を使っているかは公開されていますか?

公開されています。激しい日は 1 日約 500M トークン(約 5 億トークン)、2025 年 7 月の Anthropic 月額請求は約 $6,000。サブスク経由の運用では、OpenAI 4 契約+Anthropic 1 契約で月額約 $1,000 の範囲に収まっていると本人が説明しています。詳細は彼のブログ Vibe Meter 2.0 記事を参照してください。

「read せずに ship する」は本当に安全ですか?

Peter 氏の場合は、テスト・CI・型・lint・eval harness への先行投資と、データベース・セキュリティに関わる部分は手で read するという区別が前提です。本人も「全部のコードを read していないわけではなく、退屈な部分(データ変換やTailwindクラスなど)を read していないだけ」と説明しています。同じスタイルを組織で試す場合は、検証文化を先に整えてから auto-merge 範囲を限定的に広げるのが安全です。

SOUL.md と CLAUDE.md は何が違いますか?

SOUL.md はエージェントの人格・価値観・境界線をプロジェクト横断で定義する OpenClaw 発の概念で、Core truths / Boundaries / Vibe の 3 要素で構成します。CLAUDE.md はプロジェクト固有のルール・スタイルガイド・スキーマを書く Anthropic 公式仕様です。前者は「誰であるか」、後者は「何をするか」を担当します。両者は併用が想定されており、Peter 氏も自身のリポジトリで使い分けています。

「アプリの 80% は消える」は本当ですか?

Peter 氏が Lex Fridman Podcast #491 で語った予測です。personal agent が位置情報・睡眠・予定・嗜好などの context を持つようになると、MyFitnessPal や Sonos アプリ、Eight Sleep アプリのような context 依存型のアプリはエージェント側で十分に代替できる、という見立てです。「アプリは『遅い API』になり、純粋な API を提供する企業だけが残る」とも語っています。あくまで本人の予測ですが、agent-first な UI / API への移行が始まっているのは事実です。

OpenClaw との関係を教えてください。

OpenClaw は Peter Steinberger 氏が立ち上げたローカル常駐型 AI エージェントで、OSS 史上最速級の成長速度(公開 3 か月で GitHub star 24 万超)を持ちます。2026 年 2 月の OpenAI 参加に合わせて独立財団に移管されました。詳細は OpenClaw とは を参照してください。

12.まとめ

Peter Steinberger 氏は、PSPDFKit を 13 年運営して €100M+ で exit した後、3 年の暗黒時代(Dark Era)を経て AI 駆動開発を極限まで突き詰めたエンジニアです。月 6,600 コミット、日 約 5 億トークン、常時 4〜10 並列エージェントという数字は紛れもなく個人技ですが、その背後にある ツール最小化、CLAUDE.md / SOUL.md / AGENTS.md による統治、agent-scripts のポインタ方式、IC からエンジニアリングマネージャーへの思考転換は、組織でも参考にしやすい実装パターンです。さらに彼が Lex Fridman Podcast #491 で語った 「アプリの 80% は消える」「プログラミングは knitting 化する」「ブラウザは遅い API になる」「新しい職能は builder」 という 4 つの予測は、AI 駆動開発がもたらす変化の方向性を考える材料になります。

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澤田 翔太(Shota Sawada)
この記事を書いた人

澤田 翔太

株式会社クリプタル 代表取締役

1988年生まれ、慶應義塾大学卒。創業メンバーとして関わった株式会社セールスサポートを株式会社ネオマーケティング(東証STD 4196)に売却。株式会社クリプタルでも複数の事業立ち上げと売却を経験し、2022年9月には婚活・恋愛メディア「シッテク」「婚活会議」を株式会社ベビーカレンダー(東証GRT 7363)へ売却。現在はAI業務支援事業、TANTOU事業、グロースハック支援事業、メディア事業、SEOコンサルティング事業を手がける。